福島民報(2014年8月23日)

桑折町の農業関係者や町民代表らの思いを拝聴する石原大臣と浮島政務官

桑折町の農業関係者や町民代表らの思いを拝聴する石原大臣と浮島政務官

収穫量・出荷量ともに全国2位(農林水産省統計より)を誇り、人気の高い県産の桃。県内でも桑折町は献上桃「あかつき」をはじめとした桃の有数の生産地として知られる。桑折町の復興、特に営農の本格再開に向けた除染などの取り組み、風評被害対策、今後について話を聞く「桑折町のこれからを考える座談会」が7月31日、町内のJA伊達みらい桑折総合支店ふれあいホールで開かれ、石原伸晃環境相、浮島智子環境大臣政務官が、髙橋宣博桑折町長ら地元関係者の思いを拝聴した。それに先立ち、石原氏と浮島氏が桃農家2軒と選果場を見学。桃の収穫や選果を体験した。また、環境省の有志35名が「ふくしま復興サポーター」として、果樹園での桃の収穫や選果場での出荷を手伝った。

座談会出席者(※順不同)
◆伊達みらい農業協同組合代表理事組合長   安彦慶一(あびこ けいいち)氏
◆伊達みらい農業協同組合モモ生産部会桑折支部支部長   亀岡吉徳(かめおか よしのり)氏
◆福島県農業総合センター果樹研究所主任研究員   阿部和博(あべ かずひろ)氏
◆「桑折御蔵(おんくら)」副理事長    畠腹桂子(はたふく けいこ)氏
◆桑折町民研修センター「うぶかの郷」支配人   石幡政子(いしはた まさこ)氏
◆桑折町長          髙橋宣博(たかはし のぶひろ)氏
◆環境大臣          石原伸晃(いしはら のぶてる)氏
◆環境大臣政務官      浮島智子(うきしま ともこ)氏
◆NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長 ジャーナリスト・環境カウンセラー ファシリテーター[議事進行役]    崎田裕子(さきた ゆうこ)氏

安彦氏

安彦氏

亀岡氏

亀岡氏

阿部氏-1

阿部氏

畠腹氏

畠腹氏

石幡氏

石幡氏

髙橋氏

髙橋氏

石原氏

石原氏

浮島氏

浮島氏

崎田氏

崎田氏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

石原 本日は大変おいしい桃とキュウリをいただきました。桃の収穫は非常に繊細な作業だと感じました。桃に傷を付けてしまったら、これまでの生産者の方の努力が報われませんから。生産者の皆さまも選果場で働いている皆さまからも、「フルーツ王国ふくしまここにあり」という心意気を感じました。また、髙橋町長から町民の皆さまのご理解によって町の除染が急激に進んだことをうかがい、一日でも早く元の姿を取り戻そうという強い思いを感じました。
浮島 私も桃の収穫は初めての経験でした。赤ちゃんに触るような気持ちでしたね。桑折町の桃は実がしっかりしていて甘みがありますね。ずっしりとした重さから、皆さまのまごころが伝わってきました。
崎田 桑折町は献上されている「あかつき」をはじめとする桃の産地として有名です。桃の生産を含めて、復興に向けての皆さまの取り組みを教えてください。
安彦 震災から三年と五カ月が経ちましたが、風評被害はいまだに払拭されていません。JA伊達みらいでは、放射能対策として出荷前に桃農家の全戸検査を実施し、検査をクリアした桃だけを選果場に出荷しております。また、消費者に安全安心を担保して、桑折町の農産物を食べていただくのが私どもの使命との思いから、独自の農薬適正使用基準を定め、品質保証に関する国際規格ISO9001を取得しました。農薬適正使用に関して全国初ではないでしょうか。放射能に対する不安の払拭には消費者の理解が必要です。十分に安全安心を担保し、信頼される産地づくりを目指していきます。
亀岡 JA伊達みらいモモ生産部会では、震災前からフェロモン剤利用による防除対策や誘蛾灯設置による害虫対策などに取り組み、環境にやさしい桃づくりを進めて参りました。その矢先、震災と原発事故が起こり、今まで努力して培ってきたものが全て吹き飛んでしまいました。これは風評ではなく大きな実害だとわれわれ農家は思っています。一時期とはいえ、福島の農産物が出荷停止になったのですから。実害をなくすため、町をはじめ地域全体で取り組んでいただきたいですね。
阿部 果樹研究所では、原発事故の直後から放射能の汚染レベルの把握に努めて参りました。水田や牧草地は土壌の除染のみですが、果樹園の場合は土壌と樹木の除染を同時に実施しなければなりません。特に樹木の幹の汚染レベルが高いことを確認し、樹体の除染が有効ではないかとの結論に至りました。安全な果物を届けるため、桃の生育期ではありましたが、平成二十三年夏に除染の実証実験を始め、秋冬以降に樹体の除染を始めました。現在は土壌の除染にも取り組んでいるところです。
崎田 畠腹さんは「桑折御蔵」で副理事長を、石幡さんは「うぶかの郷」の支配人を務めていらっしゃいます。現状と取り組みをうかがえますか。
畠腹 「桑折御蔵」は明治時代の蔵をおもてなし処として再生した施設で、五十代から八十代の女性たち約百名のボランティアで運営しています。毎週土曜日に提供する名物の「桑折さんちの団子汁」の収入を運営費用に充てながら、「訪れてよし、住んでよし」の町を目指して頑張ろうとしていたところ、震災が起こりました。震災後の来館者は減少しています。桑折町は旧奥州街道と旧羽州街道の分岐点。震災後は避難中の浪江町の人たちと作った「さるぼぼ」で旧街道沿いの軒先を飾り、皆さんに散策を楽しんでもらう「雛めぐり」を実施しました。その翌年は風評被害の払拭と自慢の桃の二十回目の献上を祈願し、桃のつるしびなを、今年は風評被害にあったダイコンやカボチャ、シイタケ、あんぽ柿のつるしびなを飾り、雛めぐりを楽しんでもらっています。
石幡 「うぶかの郷」は、ゲンジボタルの生息地として注目を集める産ケ沢川沿いにある町民研修センターです。近くに川があり、水遊びができることから、夏休みは大勢のお子さんでにぎわっていました。しかし、山間地に位置しているため、原発事故後、放射線量が高いのではないかという噂が立ち、利用者が激減してしまいました。私たちスタッフは風評被害に悩むことに疲れてしまい、「自然体で営業しよう」と、いつしか思うようになりました。私たちが自然体でいることも風評被害を払拭するためのひとつの手段だと思います。
髙橋 震災以来、町長として町民の命と暮らしを守ることを第一に考えてまちづくりを進めてきました。多くの町民の理解と協力により、ようやく約四千戸の住宅の除染を終える見通しが立ちました。今、参加の皆さまがおっしゃったように、町外の人にも安心して訪れてもらえる環境が整ってきたところです。一方、町の基幹産業である農業を取り巻く現状は、まだまだ厳しいと感じています。今年から町を新たな段階に進めたいと思い、町独自の観光キャンペーンクルーとして五名の「桑折町スマイルピーチ」を選び、観光協会のPRキャラクターとして「ホタピー」を制作しました。現在私たちと一緒に風評被害払拭のためのPRやトップセールスを行っています。
亀岡 私の農園では平成八年の皇太子さまご夫妻の行幸を記念し、消費者に桃畑を散策してもらう「ピーチロードをゆっくり歩こう会」を行ってきました。原発事故により中止を余儀なくされましたが、いつまでも中止していたのでは、消費者との交流が途絶えてしまいます。前向きに考えなくてはと思い、今年七月に選果場の見学者を募り、同時に桃の収穫を体験するツアーを行いました。その場で収穫した桃を味わってもらい、短い距離ですが、町の散策も楽しんでもらいました。参加者からご好評をいただいたこともあり、今後も消費者との交流を続けていきたいと思います。
浮島 皆さまが地域のために何ができるのかを考え、率先して行動していることに心から敬意を表します。昨年三年ぶりに出荷されたあんぽ柿と同様に、桃のおいしさも周囲の人に宣伝していきます。
崎田 最後に、復興に向けた今後の思いをお聞かせください。
阿部 県北地域は県内の桃の栽培面積の約九割を占めています。中でも献上桃で有名な桑折町は桃の産地の牽引役です。産地の再生は放射能対策、風評被害対策に尽きますが、一般的な課題である持続的な農業の推進に向けては、省力的な栽培方法の確立や生活基盤を強化するための担い手の確保に取り組んでいます。最先端の技術を提供しながら、生産者の方がノウハウを培っていけるよう協力したいと考えています。
亀岡 震災前に新規就農した十名は、原発事故後の厳しい状況下でも農家を辞めず町を離れませんでした。国による風評被害に対する賠償や手厚い保護があったからだと思います。引き続き県内の農家の支援をお願いします。
安彦 安全安心な農産物の供給を基本としながら、震災前から行っていた桃の海外輸出を積極的に進めていきたいです。昨年のタイに続き、今年はマレーシアへの輸出も計画しています。世界中にJA伊達みらいの桃を輸出できれば、復興以上の振興が期待できます。JA伊達みらいの三本柱である桃、キュウリ、あんぽ柿で、さらなる復興を図っていきます。
石幡 桑折町に残る旧街道沿いの史跡、伊達家にまつわる史跡を観光資源として生かし、桑折を訪れたいという方を増やしたいです。また、現在も家族で県外に避難している方、家族と離れ離れで暮らしている方がたくさんいらっしゃいます。町内のお子さんに元気と癒しを提供するとともに、県外に避難している方が安心して戻って来られる町にしたいです。
畠腹 昨年十二月末、地元の食材を生かした「わが家の人気料理コンテスト」を実施しました。これからも地産地消で、「桑折さんちの団子汁」に続く人気メニューをつくっていきたいと思います。
髙橋 今、われわれが成すべきことは次世代を担う子どもたちのために、「ふるさと桑折」を元に戻すこと、あるいはそれ以上のものにして引き継ぐことです。交流人口の増加のために、皆さまと知恵を出し合って取り組んでいきます。また、八月二十三日から福島市のフォーラム福島で、桑折町を舞台にした映画『物置のピアノ』が公開されます。その後、全国でも上映される予定ですので、ぜひ多くの方に観ていただきたいです。
石原 震災や原発事故で大変な思いをされた方々が、次のステップに進もうとしている姿、それを行政の長がしっかりと支えている姿を見て、大変感銘を受け、大きな勇気をいただきました。一刻も早く風評被害を払拭し、桑折の桃、福島の桃のおいしさを伝えていかなければと決意を新たにいたしました。

選果場で桃の選別を手伝う石原氏と浮島氏

選果場で桃の選別を手伝う石原氏と浮島氏

佐藤さんの農園で桃を試食した石原氏、浮島氏

佐藤さんの農園で桃を試食した石原氏、浮島氏

亀岡さんの農園でも、桃の収穫をしたふくしま復興サポーターと関係者

亀岡さんの農園でも、桃の収穫をしたふくしま復興サポーターと関係者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桑折町観光キャンペーンクルー「スマイルピーチ」や観光キャラクター「ホタピー」も一緒に記念撮影

桑折町観光キャンペーンクルー「スマイルピーチ」や観光キャラクター「ホタピー」も一緒に記念撮影