福島民報(2014年1月15日)

あんぽ柿_1

生産者の宍戸さん宅であんぽ柿を試食した石原氏、浮島氏ら関係者

石原 本日は大変おいしいあんぽ柿をいただきました。私が一つ手に取ったら、宍戸さんが「ゴミが付いています」と折れたへたのかけらまで丁寧に取ってくださり、感銘を受けました。その後、大橋組合長の案内で共選場へ行き、袋詰めしたあんぽ柿を放射線量を検出する機械で一つずつ厳しくチェックされているのを拝見しました。安全安心なおいしいものを消費者に届けようという強い思いを感じました。

崎田 あんぽ柿の出荷再開までは大変なご苦労があったと思います。まずは除染をはじめとしたその経緯についてお聞かせください。
大橋 この地域であんぽ柿の出荷が始まったのは大正十二年のことです。太平洋戦争が勃発した昭和十六年から戦後の昭和二十二年までの七年間は出荷の中断を余儀なくされましたが、九十年以上の歴史を誇る地場の特産品です。今回は加工再開モデル地区に設定された伊達市梁川町、桑折町、国見町だけが出荷を許可されましたので、生産量はごくわずかですが、みな三年ぶりの加工再開を喜んでおります。
原発事故後の平成二十三年の十二月、約三万五千人の組合員を総動員し、高圧洗浄機で柿、モモ、リンゴなどの約四七万本の果樹を一本一本除染しました。本日見ていただきましたが、柿の木は幹の表面のこけらを取ったため、サルスベリのようにツルツルになっております。あんぽ柿は収穫後、皮を剥いて三十日から五十日ほどゆっくりと乾燥させます。その段階で放射性物質が凝縮されると分かり、国や県、市のサポートを受けながら、ここまで除染を進めて参りました。
宍戸 今大橋さんからもお話がありましたが、果樹の除染は高圧洗浄機で水を吹き付けて、幹の表面に付着した放射性物質を落としていきます。厳しい寒さの中、手足が冷え切り、感覚がなくなることもありましたが、全員が「絶対にあんぽ柿の出荷を再開させる」と強く決意していました。一生懸命除染を行い、これで再開できると安堵したのも束の間、平成二十四年四月から食品に含まれる放射性物質の暫定基準値が五百ベクレルから百ベクレルに変更され、全員が肩を落としました。
翌年は大学の協力を得て柿の木を解体し、放射性物質がどのように付着しているのか調査を行いました。今年は原料柿が小さい頃に検査を行い、放射性セシウムの濃度が低い地区を加工再開モデル地区に設定しました。さらに収穫前にも再度検査を行い、安全と判断された果樹園で生産された原料柿を使用し、加工を再開しました。

放射線測定_1

JA伊達みらいの大橋組合長から出荷前の放射線測定について説明を受けた

大橋 共選場でも出荷する前に一袋ずつ機械で放射能を計測し、安全を確認したものだけを出荷しています。しかし、検査に二分近くかかる現在の機械では、大量出荷は難しく、産地として成り立ちません。今後、機械の拡充など国の支援をお願いしたいところです。
秋葉 柿の木の除染は本当に大変でしたね。先日、私たちの農家レストランにお出でになった北海道からのお客さまに「あの白い木は何ですか」と尋ねられ、「柿の木を除染しました」と答えたら、「ここまでやるんですか」と驚いてみえました。柿の収穫は男性の仕事ですが、皮を剥いたり、袋に詰めたりするのはこの地区の女性たちの冬の重要な仕事です。加工自粛中は「私たちの冬の仕事がなくなった」と話していましたが、今年は少量でもあんぽ柿を作れるということで、みんな喜んでおります。
浮島 消費者に安全安心な商品を届けたいという皆さんの心意気に敬服いたしました。このあんぽ柿の中には加工再開に向けた皆さんの思いが詰まっているのですね。厳しい寒さの中、除染を進めたこと、加工再開に向けて一丸となって取り組まれたこと、胸にずしりと響きました。
崎田 仁志田市長、伊達市は市長の英断で県内でも早くから除染に取り組んできたとうかがいました。
仁志田 最初は子どもたちの健康を心配する保護者の皆さんの声を受けて学校の校庭から除染を始め、その後、生活圏、果樹や水田の除染を進めてきました。また、全市民を対象にガラスバッジによる外部被ばく測定やホールボディーカウンターによる内部被ばく検査など、健康管理対策も行っています。しかし、まだまだ課題は山積みです。
除染で出た汚染土などは仮置き場に一時保管しなければなりません。現在市内には九十カ所以上の仮置き場があります。出来るだけ市民が足を踏み入れない場所に設置していますが、中には生活圏に近いところもあります。

仮置き場アート_1

仮置き場アートのこけら落としで学生や地元関係者と記念撮影する浮島氏

崎田 仮置き場を囲むフェンスに掲げる絵を福島大学の学生の皆さんが制作されたそうですね。
小野 私は伊達市出身で現在も市内在住ですが、制作の依頼を受けるまで、市内に仮置き場が何カ所あるのか全く把握していませんでした。制作は伊達市の現状を若い人たちに伝える良い機会にもなったと思います。明るい印象の絵を掲げたいと思い、三人で話し合って花畑に佇む少女が吾妻山の雪ウサギと虹を見上げる絵を措きました。ご覧になった皆さんに伊達市の未来を感じていただけたらと思います。
小熊 私は正直なところ放射能についてそれほど考えたことはありませんでした。しかし、大橋さんや宍戸さん、仁志田市長の努力をうかがい、放射能の影響や除染について知らない若者にも皆さんの取り阻みを伝えていかなければと感じました。
加藤 私は福島市内でも果樹園直売所が並ぶフルーツラインの近くに住んでいます。震災後は放射能の影響で農家をやめた人が多いと聞いています。本日伊達市の皆さんが四十七万本もの果樹を除染したとうかがい、伝統を守ろうとする力を感じました。
石原 仁志田市長のリーダーシップのもと、市民一丸となって除染に取り組まれたのですね。厳寒のなか、果樹の除染を行ったJA組合員の皆さんのお話にも胸を打たれました。仮置き場に地元の学生の皆さんが描いた絵を掲げる取り組みもすばらしいですね。
崎田 大切に守り続けてきた地場の産業を再生させることが、地域に暮らす人びとの元気の素になると感じております。今後の伊達市の未来のために自分が出来ること、みんなで取り組みたいことについてお聞かせください。
小野 私たちも放射能の影響や除染の取り組みなどに関心を持たなくてはと思いました。仮置き場アートのことを知り、制作に参加を希望している後輩もいます。今後も制作を続けていきたいですね。
小熊 同世代の中には放射能が地場産業に及ぼす影響について意識が低い人もいます。友人たちにも伊達市の皆さんの取り組みを伝えていきたいと思いました。
加藤 地元のおいしくて安全安心なものをたくさん食べ、他県の人たちにもそれを伝えていきたいですね。
秋葉 私たちは肉も魚も使わず、野菜だけの料理で皆さんをお迎えしています。風評被害では辛い思いも味わいましたが、地場の農産物の安全性をPRし、今後も「このお店の料理は本当においしかった」と言っていただけるような料理を作っていきたいと思います。
大橋 まずは果樹の検査体制を構築し、安全安心な農産物を消費者の皆さんに届けたいですね。県内の農産物はしっかりと放射能を計測してから出荷しています。その点を強調して、今後も食糧生産を頑張っていきたいと思っています。
宍戸 今回の震災と原発事故を伊達市がもっとすばらしい産地になるための良い機会と捉えたいですね。また、地球温暖化が進み、以前に比べてリンゴの着色が難しくなり、味も落ちています。あんぽ柿も乾燥させている間の最高気温が十五度以上になると、カビが発生しやすくなります。産地を守るため、地球温暖化対策にも取り組んでいただきたいと思っております。
仁志田 宍戸さんがおっしゃったように、今回の原発事故をより良い産地になるための契機にしたいですね。農家の後継者不足を解決するためにも、若者が就農したいと思うような魅力的な産業に成長させていかなくてはと思いました。
放射能の影響を克服するためには、放射能に対する正しい知識を広めていかなくてはなりません。伊達市では子どもたちに対する放射線教育にも取り組んでいます。これを全国的に広めるため、国にも支援をお願いしたいと思います。
浮島 本日まで一丸となって進んでこられた皆さんに敬意を表します。現場の声をしっかり受け止め、対策を進めなくてはと決意を新たにいたしました。
石原 環境大臣として、宍戸さんからの地球温暖化に対する警鐘もしっかり受け止めたいと思います。それにしてもあんぽ柿は本当においしいですね。皆さんの取り組みと共にこのおいしさを日本全国に、世界中に広めていきたいですね。