石原伸晃環境相を囲む「ふくしまのこれからを考える座談会」は三月一六日、福島市のとうほう・みんなのスタジアム(あづま陸上競技場)で開かれた。県内のスポーツや教育関係者らがサッカーJ3の福島ユナイテッドFCをはじめとした、スポーツを通じた本県復興に向けた取り組みや思いを語り合った。石原氏は福島Uのホーム開幕戦前に開かれたサッカースクールに参加した子どもたちや、飲食ブースの出店者らを激励。開幕セレモニーでエールを送り、福島Uの試合を観戦した。環境省職員でつくる「環境省 ふくしま復興サポーター」はスタジアム内の看板設置などの試合準備に汗を流した。
≪座談会出席者(順不同)≫
●福島商工会議所副会頭(福島ユナイテッドFC会長) 後藤 忠久(ごとうただひさ)氏
●福島ユナイテッドFC代表 鈴木 勇人(すずきはやと)氏
●NPO法人うつくしま スポーツルーターズ事務局長 齋藤 道子(さいとうみちこ)氏
●福島市小中学校PTA連合会会長 藤原聡(ふじわらさとし)氏
●公益財団法人福島県都市公園・緑化協会理事長(当時) 秋元正國(あきもとまさくに)氏
●環境大臣 石原伸晃(いしはらのぶてる)氏
●【進行】NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長、ジャーナリスト、環境カウンセラー 崎田裕子(さきたゆうこ)氏
石原伸晃氏 福島ユナイテッドのサッカースクールを視察して感じたことは、選手が子どもの笑顔を上手に引き出していることです。地域に根差していると感じました。プロの選手たちが子どもたちと触れ合うのはプロスポーツの一つの形ですし、選手たちが、子どもたちと一緒にグラウンドを駆け回ることで勇気を与えています。
崎田裕子氏 福島県は地域によって放射線量が異なります。線量が高く苦労している地域がある一方、線量が下がって復興に取り組んでいる地域もあります。サッカーをはじめとするスポーツは、地域をつなぎ、福島全体を元気にする大きな起爆剤になると思います。
鈴木勇人氏 福島ユナイテッドは本県初のJリーグチームとして県民の期待を一身に背負っています。東日本大震災と東京電力福島第一原発事故による解散の危機を乗り越えて分かったことは、強いだけではなく、地域に必要とされるクラブでなければならないということです。チームはスポーツを通して、福島を元気にする、子どもたちに夢を与える、世界に誇れる福島を創造するというのが創設以来の三つの理念です。チーム名の通り、福島に住んでいる人、福島から避難している人を含めて福島を一つにするチームになりたいと考えています。
後藤忠久氏 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からの三年間はユナイテッドの歴史そのものです。選手たちは避難者に希望を持ってもらいたいとの思いで避難所を手伝いながら練習しました。このような逆境にめげず、地区で優勝し、県全体の悲願であったJリーグに昇格することができました。スポ-ツと福島の復興の歴史が重なっていると思います。
齋藤道子氏 スポーツの楽しみ方には「する」「見る」「支える」の三つがあります。県内で「支える」楽しみを広げようとする私たちの活動は十年目を迎えました。会員の平均年齢は六十代を超えるくらいで、人生経験が豊富な人がそろっています。そういうメンバーが若い人たちを支えることで、自分たちも楽しむという新しい文化を創造しようと目標を持って活動しています。福島ユナイテッドがJ3という華やかな舞台に上がり、会員も華やかな気持ちになって「われわれも参加するぞ」という強い心を持っています。J3の雰囲気を楽しみながら、福島を支えていきたいです。
鈴木氏 福島ユナイテッドは今までのJリーグのチームとは異なり、県社会人リーグの三部から一つ一つ上がり、皆さんと共に育ってきました。県内各地でのサッカースクールの開催や交通安全運動への参加、選手自らが講師となる夢授業など地域活動を大切にしています。現在は福島市中心のチームですが、県の中心となるために、中通りだけではなく、浜通りや会津でもサッカースクールを開催しています。
秋元正國氏 福島県都市公園・緑化協会は、福島ユナイテッドのホームスタジアムのあづま総合運動公園をはじめ、複数の都市公園の運営管理を通じてスポーツの振興と県立の緑化を推進しています。「緑」「健康」「コミュニケーション」をモットーに施設運営に当たっています。多くの利用者に喜んでもらえるように、職員一人一人がおもてなしの心で環境づくりに取り組んでいます。震災時には体育館が大規模避難所となり、ピーク時には約二千五百人が避難していました。約半年間の避難生活をサポートさせていただきました。事故当時の様子を思い起こせば、今年の六月に日本陸上選手権大会が本公園で開催されるのは夢のようです。
藤原聡氏 震災直後で、小学校の卒業式ができなかった子どもたちが今春、中学校の卒業を迎えることができました。三年間、頑張ってきた子どもたちの姿に、卒業式では涙が止まりませんでした。三年間、学校現場は混乱していましたが、保護者や学校の先生、行政の協力で、校庭は早い段階で除染をしてもらいました。その後も、さまざまな不安はありましたが、今はほとんどの学校が屋外で運動会ができるようになり、子どもたちが外で遊べる環境が整ってきたと思います。私たちもいろいろな情報を的確に捉えられるようになりました。環境省が作った放射線に関する冊子「調べてなっとくノー卜」を活用し、保護者も子どもたちも正しい知識を得ようと努力しています。
齋藤氏 震災の影響で息子の高校のグラウンドが資材置き場となり、ラグビー部の部活動も新幹線の高架下で行うという状況が続いています。それでも子どもたちは全国大会目指して本気で頑張っています。また、放射線による健康影響を懸念して、子どもたちの屋外活動を控えるような雰囲気もあります。場所の整備とともに、安心感を与える心のケアも必要です。
秋元氏 あづま総合運動公園では、平成二十五年度から二年間の予定で公園内の除染が始まりました。除染前に毎時〇・三五マイクロシーベルトだった陸上競技場の芝生の空間線量は、除染後には〇・〇六マイクロシーベルトと大幅に下がりました。より多くの人に安心して利用していただければと思っています。子どもたちの外遊びを含め、県民の皆さんの心と体のケアの場として利用してほしいと強く望んでいます。今年の六月開催の日本陸上競技選手権大会では、男子百㍍で日本初の10秒を切る記録が出ることも期待しています。記録達成とともに元気な福島を世界に発信できればと心から願っています.
石原氏 福島の子どもたちは大きな災害によってさまざま我慢を強いられてきました。昨年、県立美術館で展覧会を開いたホセ・マリア・シシリア画伯のワークショップを、東京で見学させてもらいました。画伯はワークショップを通じ、子どもたちから抑圧されたものを出させる努力をしていました。親族を亡くした子どもに対し、こまを回す様子を見せて「いつまでも回ってないでしょ」と節理のようなものを教えたり、日本のアニメーションに自分の思いを描きなさいといって解放させたりしていました。子どもたちは一つのことをきっかけに、次のステップに向かっていくことができるのです。スポーツを通じて、震災で子どもたちが受けたプレッシャーを皆さんで解放していくことは非常に重要だと思います。福島のスポーツは、福島が新たなフェーズに進んでいくための大きな糧になると、皆さんのお話を聞いて強く思いました。
藤原氏 福島の保護者が日常生活で最も気を使っているものの一つは、内部被ばくが懸念される食べ物です。昨年一二月に県内の中学生四十人と熊本県水俣市を訪問し、水俣病からの風評を乗り越えるための話を聞かせていただきました。子どもたちは風評被害の払拭(ふっしょく)へ、福島の食べ物が安全であることを発信しなければならないと思ったようです。これからも子どもたちの郷土愛を育てるために活動していきたいと思います。
後藤氏 福島ユナイテッドのアウェーの試合では、本県から避難している皆さんを招待しています。本県からの避難者や自主避難者は相当数のままです。この状態が続けば、本県の人口構成から労働人口世代が抜けるのではないかと、経済界では危機感を持っています。避難している若い世代に、会場に設けられた「除染情報プラザ」のブースで本県の除染の現状を見てもらい、福島に対する安心感を与えたいと思っています。安心感が得られれば県内に戻ってもらえるはずです。風評被害対策では、観光も重要です。福島に来ていただいた観光客に福島は安全だという思いを持ち帰ってもらうことが大切です。一方で、震災や原発事故に関する風化も懸念しています。
崎田氏 風化させないことを日本中が胸に刻んでいくことが大事だと思います。福島の復興の様子を日本中に伝える発信力として福島ユナイテッドの皆さんは重要な役割を担うと感じています。ぜひ皆さんで支え合い、社会全体でそうなると期待しています。環境省にはさまざまな面で支えていただければありがたいと思っています。
福島ユナイテッドFCのホーム開幕戦では、石原伸晃環境相が選手をはじめ、東日本大震災や東京電力福島第一原発事故からの復旧・復興に尽くす県民と交流を深めた。計画通り除染と改修を終えた「とうほう・みんなのスタジアム」では、開幕戦に駆け付けた観客を迎えた。
石原環境相は試合前に行われた「東邦銀行親子サッカースクール」にも参加した。チームのサポーターを意味する「12番」のユニホーム姿で登場。約50組の親子を前に、「みんなが元気にサッカーを楽しんでいる姿が福島のみんなを勇気づける」とエールを送り、その様子を見学した。
石原環境相は福島ユナイテッドのホーム開幕戦の試合前のセレモニーに出席した。チームのJ3参入を祝った後、「グルージャ盛岡が相手で両チーム応援したいが、今日だけは福島ユナイテッドに勝ってほしい」とあいさつし、スタジアムを沸かせた。サポーターからは「イシハラ」コールが巻き起こった。
石原環境相は会場に隣接する本県産食材を使った飲食ブースや協賛社コーナーを視察した。地元出身の店員に激励の言葉を掛けながら、焼きそばなどを購入し、舌鼓を打った。
環境省の職員約三十人は試合運営ボランティアとして、グラウンドの周りに設置するスポンサー看板の設置や撤去などを手伝った。本県復興に向けた地域活動を支援する「環境省 ふくしま復興サポーター」活動の一環。福島ユナイテッドFCのアシスタント・ゼネラルマネジャーの山田正道さんら職員の指示に従いながら、約四十枚の看板を一枚一枚丁寧に組み立て、設置した。