日本水道新聞(2014年4月28日)

水関係者が長く必要性を唱えてきた「水循環基本法」が3月27日に成立、4月2日に公布された。先導した超党派国会議員で構成する水制度改革議員連盟は、総合的な水政策の推進に向けた第一歩として同法を位置づけ、今後水制度改革のさらなる推進を目指す。同法は、国民運動から起草され、議員立法により衆議院・参議院ともに全会一致で可決、成立するという道のりをたどってきたが、真価を問われるのは今後の運用だ。同法の推進力は国民そして、水の現場を司る上下水道関係者の意識と行動である。今後、水循環基本法がもたらす社会的な影響と役割、そして制定により期待される動きについて、水制度改革議員連盟の石原伸晃代表および議連所属の超党派国会議員、立法に関わった関係者とともに水に関わる学識者、産業界、行政関係者から広く提言をいただいた。

<水制度改革議員連盟代表・環境大臣 石原伸晃氏に聞く>

水道新聞v1■制定を機に
わが国には、水に関係する個別法は数多くありますが、水に関する基本法は制定されておらず、水の基本理念は存在しませんでした。
水循環基本法は、わが国で誕生した最初の「水の憲法」と言ってもよいでしょう。画期的なことであり、中川秀直先生、竹本直一先生、中川俊直先生という昔からの仲間とともにその実現に関わったことは政治家として大変誇らしいことだと思っています。
国会審議のプロセスは、私が代表になってからも紆余曲折がありました。全会一致で通過できる法案でありながら最初の上程から成立まで、実に4国会を要しています。一度廃案を経験したからこそ、今国会では早めの通過を図り、3月27日の衆議院本会議でいよいよ成立を迎えました。
水循環基本法にも明記されていますが、地球温暖化の水への影響には注意深く目を向けていく必要があります。海面上昇は、防災、生態系、海水遡上による水源や水質などに非常に大きな影響を及ぼします。さらには湖沼の水質汚濁も一層深刻さを増す恐れがあります。国内外ともに水問題の重要性は確実に高まっていきます。
水問題はあらゆる事象に関わっており、そうした問題を解決するためにはわが国の水制度を抜本的に改革していくことが不可欠です。基本法の制定を機に、私もこれまで以上に積極的に改革に取り組んでいきます。
■水への思い
私はこれまで、水行政に関わりの深い国土交通省、環境省両方の大臣を経験させていただきました。国交省では河川、水資源、下水道、環境省では水質、合併処理浄化槽、そして水から派生する生態系を所管していますが、すべてはつながっている、まさに水循環の中に包含されるという印象を強く持ちました。
一方、水行政の縦割り構造の中で、総合的な政策推進の視点を欠いているとも感じていました。
山に雨が降り、森林が吸収しなかった水が沢に流れ、それが河川の本流となり湖沼の水質をきれいにして、海に流れ、流れ着いた栄養をもとに魚が育つ。そして海水が蒸発して恵みの雨となります。この循環を一体で捉えるべきとの認識が水循環基本法のベースです。
森林は森林だけ、河川は河川だけ、海は海だけ、というようにばらばらに管理されていますが、水循環は、流域全体で一つにつながっているのです。総合的な視点を欠いたまま管理されていたのでは、健全な水循環の維持・回復など到底望めません。
水循環基本法は、このような縦割りを見直し、健全な水循環を取り戻すことを謳っています。その第一歩として内閣に「水循環政策本部」を設置し、「水循環基本計画」を策定することになります。
■法律に魂注ぐ
これから基本法に魂を注入していかなくてはなりません。水循環政策本部をいち早く立ち上げて、実効性のある活動を展開していくことが求められます。
水循環政策本部の設置については、多くの方が懸念されていることですが、内閣府の構造の問題に注意を払わねばなりません。各省の細かなチェックが求められます。水制度改革議員連盟としても有識者の方とフォローアップ委員会を設置して、確実に機能するようにバックアップしていきたいと考えています。
行政改革担当大臣を務め実感しましたが、日本の法律の数は約2000に及びますが、制定しただけで形骸化している法律がいくつもあります。大切なのは法律の運用です。しっかりとフォローしていくことが課題です。
■基本理念の浸透を
水循環基本法が基本理念を明確に掲げたことで、大きな社会変化が期待できます。掲げられた基本理念は従来の延長ではなく、いわばパラダイム転換と言うべき考え方を含んでいます。
私が考える基本理念における重要なポイントが三点挙げられます。
まず「健全な水循環の維持・回復の積極的取組み」です。水循環は、さまざまな要素で構成されますが、それらは一つのサイクルをなしています。私たちは、これまで水利用という目先の利害にとらわれて、このサイクルを壊してきました。その結果の一例が地球温暖化による影響の顕在化です。これは人類に対する警鐘だと思います。水循環の再生には、既存のものではなく、新たな切り口の施策が必要になります。従来の政策の延長では大きな変化はありません。
次に「水は公共性の高い貴重な国民共有の財産」という点です。水は、これまで地下水は「私水」、河川の流水は「公水」とされてきました。つまり、水の法的性格が統一されていなかったのです。水循環基本法によって、水は「国民の共有財」と明示されました。すべての水に関する法的性格が示されたことはこれからの個別法の考え方にも大きな変化をもたらしていくでしょう。
そして「健全な水循環を河川流域ベースで達成する」という点です。国土交通大臣の経験の中で河川流域という概念の大切さを身にしみて感じました。河川流域は、上流から最下流まで多くの地方自治体にまたがり構成されています。自治体の行政境界は人為的なものですが、水循環は自然の摂理に従うものです。水循環は、源流の森林から河口の海まで本来ひとつながりなのです。水のつながりが存在していることを再認識していくことが必要であり、その考えが政策の大きな転換を導くと思います。
そしてこれらの三つの基本理念の下で、私が重視している施策展開の一つが「国際協力の推進」です。国際的に水を巡る事案は非常に重要な課題になります。基本法にも健全な水循環が地球環境の保全上、重要な課題であることを示し、国際的な連携、技術協力を推進していくことを盛り込んでいます。水が国民共有の財産であるという理念を国民にも伝えていくことが、わが国が水に関する国際問題を解決するとの機運につながっていくものと思います。
以上に述べた点は、いずれも、これまでとは違ったパラダイムシフトを含んでいます。水循環基本法の理念が浸透する中で、社会変化が巻き起こることを大いに期待しています。
■関係者への期待
水循環基本法にはパラダイム転換とも言うべき重要な理念が掲げられています。これは議員立法だからこそできたことだと思います。
産官学の皆さまが、これからこの理念をどのように活かせるか、そして、いかにして実効性のあるものにできるか。これが水に関する産官学の皆さまの課題になると思います。
21世紀という新たな世紀が幕開けしてすでに15年、私たちは新世紀にふさわしい新たな道を切り拓かなければなりません。産官学の皆さまには過去の制度にこだわることなく、新たな道を歩んでほしいと願っています。
水循環基本法の基本理念を活かすように、これまでの制度を思い切って改正し、同時に必要な新制度の創設に努力していただきたい。水制度改革議員連盟は、皆さまのご意見に真摯に耳を傾け、健全な水循環の維持・回復のために皆さまのご意見を積極的に実現してまいります。私は、議連の代表として皆さまとともに最善の努力を傾ける決意です。