福島民報(2013年4月27日)

福島集合v1

東京電力福島第一原発事故に伴う除染作業に取り組む本県の地域再生を探る「ふくしまのこれからを考える座談会」は六日、福島市の民報ビルで開かれた。環境大臣の石原伸晃氏と、地域活動を繰り広げる六団体の代表者が意見を交わした。出席者からは、人と人の交流が被災地支援の広がりに結び付いている話などが寄せられ、石原氏は除染後の地域再生に向けた活動は「つながり」がキーワードになるとの見方を示した。石原氏は座談会に先立ち、市内の荒川桜づつみ河川公園で行われた清掃作業に参加し、地域住民と一緒に汗を流した。座談会は環境省の主催で、福島民報社が協力した。

石原氏

石原 伸晃氏

石原伸晃氏  座談会に出席している平澤さんと、先ほどまで荒川桜づつみ河川公園の清掃活動に参加していました。このような活動が、除染の終わった地域を再び、市民の憩いの場所にしていくと実感しました。除染の先に見える福島、これからの福島について意見を伺い、今後の環境行政に反映させたいと考えています。これまでの取り組みや現状を聞かせてください。

平澤 久氏

平澤 久氏

平澤久氏 荒川桜づつみ河川公園の清掃には町内会員や消防団員、地元の子どもら約百四十人が集まり、敷地内をとてもきれいにすることができました。この公園は平成四年に完成しました。桜を二百二十本植栽し、木の成長とともに観光客が増え、子どもの遠足先、老人の憩いの場にもなっています。
東京電力福島第一原発事故後の公園の空間放射線量は毎時一・七マイクロシーベルト以上でしたが、現在は除染が順調に進んだため毎時〇・一二マイクロシーベルト程度に下がっています。二年前は線量計を持ち歩いている人も見掛けましたが、近ごろは落ち着きを取り戻し、そのような人を見なくなりました。今後も清掃活動などを通して地域の環境を大切にしたいです。

鈴木 久氏

鈴木 久氏

鈴木久氏 東日本大震災後の二年間で感じるのは県民が強くなったことです。放射線の問題では「避難する」「避難しない」の判断を迫られました。そのために多くの人が人体への影響などを勉強しました。
福島民報社としては震災直後から「スマイルふくしまプロジェクト」に取り組み、県民に笑顔を届けようと花の植栽を続けています。他にも「子ども記者」に委嘱した小中学生が被災地や仮設住宅を取材し、新聞にまとめました。本県の姿を全国に伝え、震災の風化を防ごうと、中学生から一般までを「うつくしま復興大使」として四十六都道府県に派遣しました。

後藤 正一郎氏

後藤 正一郎氏

後藤正一郎氏 震災後は農作物の安全性、農家の思いを全国にいかに発信するかがJAの重要な仕事になりました。風評被害対策のキャンペーンを震災直後から東京のJR有楽町駅前で実施しました。その後、一年間に五十五回も首都圏で農産物をPRしました。自分たちには小さいことしかできませんが、少しでも安全性を全国に発信したいと思って頑張りました。
農家は自分の作ったものが安全なのかという不安を抱いています。そのため、土壌の安全性確保を目的に除染をきめ細かく実施しました。さらに、前向きな農業を目指そうと植物工場の整備計画も進めました。

奥本 英樹氏

奥本 英樹氏

奥本英樹氏 私は除染ボランティアの拠点づくりなどに取り組んでいます。震災前の福島を取り戻すには圧倒的な時間とマンパワーが必要になります。小さな力でも継続することで大きな力になると思い、全国から若いボランティアを集めて活動しています。ただ、除染を進めるためには福島の人の意識も問われるのです。除染は地味な作業です。地元の協力でボランティアを支え、つながりができることで、意織が変わると思います。

新妻 敬氏

新妻 敬氏

新妻敬氏 見せる課は復興に向けた取り組みの障害となる風評被害対策を主に担当しています。県産の野菜や牛肉が敬遠され、いわき産の農作物も売れなくなりました。そこで平成二十三年十月に市がスタートさせたのが「いわき農作物見える化プロジェクト」です。消費者に安全、安心を判断してもらうため農作物や土壌の検査結果、生産者の姿勢、思いなどの情報をホームページで提供しています。その後、情報発信を強化するためにつくったチームが「いわき情報局見せる課」なのです。バスツアーも企画し、消費者にいわき市の農家などを紹介しました。

和合 アヤ子氏

和合 アヤ子氏

和合アヤ子氏 女性会は震災以前から福島市のJR福島駅前に花時計を設置してきました。福島市は「花もみもある福島市」として売り込んでいます。福島を訪れた人に美味しい食事を味わっていただき、市内の魅力を伝えたいと常に考えています。
県内十カ所に商工会議所があり、震災後は県産品の風評被害を払拭(ふっしょく)しようと横の連携を強めました。東京都新宿区の神楽坂では商店街の協力を受けて、本県ブースを設置しました。この他に年三、四回は全国に向けて情報を発信するイベントに参加しています。少しずつ定着し、応援してくれる全国の仲間も増えています。女性のパワーと笑顔で県民の心に明るく、美しい花を咲かせたいと願っています。

石原氏 皆さんがさまざまな場面で努力していることが分かりました。風評被害について、政府としてもしっかり考えていくべきだと実感しました。福島は農業県です。政府としても農作物の安全確保に努めていますが、より一層の努力をしながら、あわせて安全であることを発信していく必要があります。皆さんの前向きな取り組みが新聞などで発信されることによって、多くの県民に活動が理解されることを期待しています。

崎田 裕子氏

崎田 裕子氏

嶋田裕子氏 皆さんの活動を聞き、心に残った視点が二つあります。一つは、自らの暮らしや地域の視点を持ち、足元からの地域再生を考えている点です。二つ目は、最初の行動が個人でも、地域の町内会や仕事の仲間、同じ思いの人につなげて広げていることです。今の活動をどのように広げたいと思っていますか。

奥本氏 ボランティアが個人宅に行っても最初は「何者だ」と相手にしてくれないケースがあります。そこで住民が「ありがとう」の一言を言うだけで互いの関係は変わるのです。笑顔での会話が弾み、そのボランティアは再び、福島を訪れるようになります。この継続可能な取り組みを「福島モデル」として世界に発信し、後世に残したい。今、避難先から子どもが一人戻ると十人の大人が笑顔になるといわれます。子どもたちが戻って来れる環境を取り戻すことにも全力を挙げます。

鈴木氏 最初から大きなことはできません。自分には何ができるか、というところから始めたいです。「こんな、ちょっとしたことだけど、いいんじゃない」という話をよく聞きます。そのような取り組みが積み重なって大きな流れになるのではないでしょうか。この「ちょっとしたこと」を見つけ出し、県民に発信するのが私たちの仕事です。
平澤氏 原発事故が起きる前のように、スーパーマーケットや小売店に県産の農作物が並び、みんなが買っていく姿が見たい。行政は風評対策を強化すべきです。除染を一日でも早く終わらせるような仕組みもつくってほしいです。除染が終わらないと次の段階に進みません。

後藤氏 農作物への放射性セシウムの吸収抑制対策などの国の支援を継続してください。農家は安全な土壌で栽培し、安心できる農作物を消費者に届けたいのです。一方でスーパーマーケットなどからは農作物の安全性に関する情報発信がまだまだ足りないと言われます。白河産だけが安全でも風評は払拭されないでしょう。県全体が改善されない限り、抜本的な解決にはなりません。
新妻氏 風評の払拭や復興に向けて活動していますが、農家の生活を震災前よりも良くしたい。現在、JAをはじめ県内の各団体が独自の風評対策に取り狙んでいます。これからは国、県、市町村とJAが一丸となり、それぞれの立場に応じた役割を分担し、効率的に進めるべきではないかと考えます。

和合氏 県内にいるだけでは解決しない問題が多いのではないでしょうか。どんどん外に出て福島の元気、安心を発信し、福島に来てもらう活動が求められます。福島駅前の花時計の新しいデザインはスマイルマークで、福島民報社との共同作業です。これからも、みんなで手をつないで福島の復興のために頑張ります。

崎田氏 皆さんは身近な視点を大切にしながら次の一歩を踏み出そうとしています。そのような活動を国が支えることで地域の再生は加速するはずです。

石原氏 「つながり」って、いい言葉ですね。この座談会のキーワードになりました。人と人、地域と地域、さらに一人の子どもが戻ると十人の大人が笑顔になる話も、大人と子どもの世代のつながりだと感じました。座談会の出席者がつながり、これからの地域再生をリードしていくことを期待します。政府の一人として全力で応壊します。

◆福島市八木田第二町内会長
平澤 久氏
◆JA東西しらかわ営農経済部長
後藤 正一郎氏
◆NPO法人オンザロード理事(福島大教授)
奥本 英樹氏
◆いわき市「見せます!いわき情報局 見せる課」係長
新妻 敬氏
◆福島商工会議所女性会長
和合 アヤ子氏
◆福島民報社取締役論説委員長
鈴木 久氏
◆環境大臣
石原 伸晃氏
◇進行 NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット代表
崎田 裕子氏

荒川桜づつみ河川公園で子どもたちと施設を清掃する石原氏(手前左)

荒川桜づつみ河川公園で子どもたちと施設を清掃する石原氏(手前左)

石原氏は六日、福島市の荒川桜づつみ河川公園で行われた地元町内会の清掃活動にも参加した。花見時期を控え、以前のようにたくさんの人に桜を楽しみに来てほしいと八木田、八木田第二、仁井田の町内会が合同で実施した。石原氏は「環境省 ふくしま復興サポーター」として環境省職員約三十人と共に参加し、子どもたちとパンジーを植えたり、遊具を拭いたりした。子どもたちに「上手だね」などと声を掛けながら取り組み、終了後には「復興に向けて力を合わせたい。除染を急ぎ、(公園などに)市民が戻れる環境を整える」と語った。
参加した吉井田小五年の高橋幸陽君(一〇)は「みんなが転ばないように枝などを拾った。遊具もきれいになった」と笑顔を見せた。八木田町内会の斎藤熏巨(ただなお)さん(七五)は公園は除染が終了し、安心して過ごせる。多くの市民に訪れてほしい」と話した。
同公園は昨年、除染が完了した。