福島民友(2013年11月17日)

福島座談会v2戻れる人から戻ろう-。東京電力福島第1原発事故に伴う全村避難からいち早く帰村宣言し、「新しい村づくり」を進める川内村。村のこれからを考える座談会が10月20日、村の「いわなの郷 幻魚亭」で開かれ、石原伸晃環境相と、地域で復興に取り組む8人が意見を交わした。出席者は、除染が終わった後の帰還と復興に向けた活動、これから取り組むべきことについて、それぞれの立場から思いを語った。石原氏は同日行われた村の復興イベント「2013かわうち復興祭」にも参加し、住民との交流を深めた。

石原氏v1

石原氏

石原 復興祭開会セレモニーでの村長の言葉「l歩を踏み出さなければ奇跡は起こらない」に感銘を受けました。同じ思いで頑張っている皆さんの話をお聞きし、政策に反映させていきたいと思います。

崎田氏v1

崎田氏

崎田 まずは、皆さんのこれまでの活動と現在の取り組みをお聞かせください。

 

福塚氏

福塚 大阪で生まれ、東京で働いていました。大切な友人が川内村の出身で、彼女の故郷の風景を取り戻したいとの思いから、昨年5月に村に移り住み、今春まで役場で働いていました。現在は地域の女性たちと農業支援団体を立ち上げ、川内村産のコメを広めるための活動をしています。コメ作りに挑戦しながら、農家を元気づける手伝いや農業を楽しむイベントなども催しています。

 

折田氏

折田氏

折田 昨年5月から1カ月間、放射線に関する健康相談で村内の家庭を戸別訪問しました。今年4月からは、村との連携協定に基づく大学の復興推進拠点が設置され、健康相談担当の保健師として活動しています。放射線量調査や放射性物質の測定にも取り組み、住民への周知や不安解消につなげています。大学の知見を生かし、村との連携を深めながら、住民のニーズに応えていきたいです。

西川氏

西川氏

西川 東京出身で、震災当時は大学で原子力や環境放射線を学んでいました。調査のために何度も福島県を訪れるうちに魅力を感じ、県外避難した子どもたちの学習支援をしていたこともあって、被災地に貢献したいとの思いを強くしました。昨年12月に村に引っ越して現在の職に就き、除染後の放射線量を調査しています。サテライトでは商店街のまちづくりの支援にも取り組んでいます。

井出氏v1

井出氏

井出 人口が減り、事業者には厳しい状況が続いています。商工会では、再開の志を持った事業主への経営指導や補助金を活用した支援に取り組んでいます。観光協会では、「健康」「地域資源」「郷土料理」をキーワードに、交流人口の増加を目指しています。村の現状を見てもらい、風評被害払拭につなげるためです。農商工連携を進め、地域産品のブランド化や担い手育成にも力を入れています。

秋元氏v1

秋元氏

秋元 役場が村に戻るまで明かりをともし続けようと、「川内村へ迎える会」をつくりました。絆のひろば「ひまわり」を運営し、苦労や不安を気兼ねなくおしゃべりできる場を設けました。訪れた人がホッとして帰っていく様子を見ると、私も励まされます。地元の祭りの継続や復興への願いを込めた植樹祭にも取り組みました。役場が戻って会が解散した後も、婦人会として復興を進めています。

高野氏v1

高野氏

 

高野 避難先から戻って荒れた村を見たとき、農地、山林、子どもを何とかしなければと感じました。まずは農地と道路をきれいにしようと除草に取り組んだところ、風景ががらりと変わり、本来の姿に大きく近づいた気がしました。村民は「村を復興させたい」との思いを強く持って頑張っています。最大の不安は今なお続く原発のトラブルです。一刻も早い事故の収束をお願いします。

遠藤氏v1

遠藤氏

遠藤 農地や森林、人といった何気ないものが実は宝物だったのだということを、失って初めて、しかも支援で村外から来た人たちによって気づかされました。残念ですが、震災前には戻れないと思います。だとすれば、宝物を大切にして、新しい村づくりを進めようと考えています。そのために生きがいや誇りをどう取り戻していくか。これらが無ければ、真の村づくりはできません。

加藤氏

加藤氏

加藤 自治体の取り組みが多様化する中、川内村は復興に向けていち早く動き始めました。人口は半分まで戻りましたが、若者が少なく、これからが正念場です。「絆」という字は「ほだす」と読み、「つなぎとめる」という意味もあります。良い意味で、ほだし、ほだされ、誰もが住みたいと思うような村をつくることが大事です。国の役割は除染を確実に進め、帰還しやすい環境整備を行うことだと思います。

石原 村の復興には雇用や交流人口の確保が不可欠です。政府を挙げてバックアップしていくことが大切だと感じました。除染については鋭意進めていきます。その中では、きめ細かいリスクコミュニケーションや新たな技術の導入などを通じて除染を加速し、より多くの住民の不安を解消します。帰村のムーブメントをしっかりと後押ししたいと強く感じました。

崎田 新しい村づくりを進めるためには何が必要でしょうか。

井出 村のグランドデザインを描くことです。例えば、農業を復活させるにしても、従来通りではなくもっと磨き上げなければ、担い手が出てきません。住民自身が生きがいと誇りを持ち、輝いていることが、村の魅力につながります。

秋元 被災した他県では復興の道しるべができつつありますが、原発事故の影響で本県の復興は遅れています。安全に安心して暮らせなければ、どれだけ村民が頑張っても真の復興とは言えないと思います。

折田 豊かな自然や人の優しさに触れ、住みやすさを実感していますが、やはり放射線を無視して生活することはできません。慢性的な低線量被ばくに関する情報の不足が不安の要因にもなっています。だからこそ、行政と専門機関が連携して、健康リスクについて住民と対話を続けていくことが大事です。

西川 放射線の影響は健康や農業、普段の生活など多岐にわたり、住民の抱える不安も十人十色です。その一つ一つを丁寧に解決していくことが、安心して暮らすために必要ではないでしょうか。
福塚 知り合いもなく、仕事もないまま村に移り住んできた私を、村の人たちは歓迎して受け入れてくれました。村の人たちの心の温かさに触れてみて、それが村の一番の魅力だと実感しています。

石原 何をするにも、そこで暮らす人、人と人とのつながりが必要ですし、新しい縁をつくっていく環境が今の川内村にはあると思います。すぐには村の将来像を示せなくても、いろいろな縁の糸を紡いで一つの形にしていくことで、希望が見えてくるのではないかと感じました。

崎田 それぞれの立場から、復興に向けた思いをお聞かせください。

秋元 除染をはじめ、商工業や観光、医療などたくさんの課題がありますが、あらゆる活動の基礎となるのが道路だと思います。いわき市に通じる国道399号の早期整備を実現してほしいです。

高野 「農地」「山林」「子ども」、これらが地域復興のカギを握っていると考えます。これからも、村民一人一人の声を大切にして活動していきたいと思います。

遠藤 帰村できない理由は人それぞれありますが、「いつの日か戻りたい」との思いは共通しています。この気持ちを受け止めて、5年後、10年後をイメージしながら、村づくりを進めていきます。都市部のような便利さはありませんが、時間がゆっくり流れて、周りの景観にホッとして、日々の暮らしで子どもたちの声が聞こえる、そんな村を思い描いています。

井出 山林には原発事故の影響が色濃く残っていますが、村の面積のほとんどを山林が占めており、目を背けるわけにはいかないと思います。一つ一つ課題を解決し、山林を活用することで訪れた方をもてなし、「とっておき」の時間を提供できる地域にしたいです。

西川 東京にいた頃はマンションの隣人も知らないような生活をしていました。村に住んでみて、人と人とのつながりにとても魅力を感じています。都会にもつながりを求める人はたくさんいますし、川内村はそれを受け入れる可能性を秘めています。地元の大学としてこれからもサポートできればと思います。

折田 村民の皆さんに支えられながら活動できていることに感謝しています。放射線に関する知識を持つ医療従事者として、住民一人一人との対話をこれまで以上に重視していきたいと考えています。

福塚 「川内村は元気」という明るいニュースを、これまで村を支援してくれた人たち、さらには全国に届けたいです。村外に避難している人に「楽しそうだな、戻りたいな」と思ってもらえるように、農業を通じて元気を発信したいです。

加藤 「心ひとつ ふくしま再生」をテーマに、県民に寄り添い、共に歩む報道を心がけてきました。村の総合計画の基本目標「共に創ろう“強くやさしい 新生かわうち”の未来」にあるように、行政と住民が手を携えて一歩一歩進んでいってほしいと思います。その取り組みを私たち新聞も応援していきます。

石原 まずは除染を完結することが肝要です。汚染廃棄物を運ぶ道路の整備、放射線リスクの説明なども含めて、国としてやるべきことはしっかりやります。そして最後は人ですね。皆さんの話を聞いてあらためて思いました。村に魅力を感じて活動できるのはすごいことですし、そういう人たちが新たな可能性を広げ、村の未来をつくっていくのだと思います。

崎田 さまざまな事情を抱え、帰村できない人たちがたくさんいます。そこに思いをはせつつ、迎え入れる準備をする皆さんの取り組みに感激しました。村外から来て支援している人たちによって新たな絆も生まれています。こうした動きがほかの地域にも広がることを願い、川内村にはその情報発信源になってほしいと思います。本日はありがとうございました。

座談会出席者  ※順不同
Fuku farmingチアリーダー 福塚 裕美子氏
長崎大学原爆後障害医療研究所 保健師・看護師 折田 真紀子氏
福島大学 うつくしまふくしま未来支援センター いわき・双葉地域支援サテライト 放射線対策業務担当 西川 珠美氏
川内村商工会長、観光協会長、議会議員 井出 茂氏
川内村婦人会長 川内村へ迎える会会長(旧) 秋元 洋子氏
川内村行政区長会長 高野 恒大氏
川内村長 遠藤 雄幸氏
福島民友新聞社 役員待遇論説委員長 加藤 卓哉氏
環境大臣 石原 伸晃氏
〈進行〉
NPO法人持続可能な社会をつくる 元気ネット理事長、環境カウンセラー 崎田 裕子氏

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村の名物イワナの塩焼きを手に地域の人たちと交流する石原氏

石原氏は同日、村で開かれた「2013かわうち復興祭」にも参加し、地域の人たちと交流を深めた。
復興祭は、全国に避難する村民に村の現状を発信し、イベントを通して交流人口を回復させるため、昨年から開催されている。会場には多くのブースが並び、そばや野菜などの「食」をはじめとする村の魅力をアピールした。
石原氏は「環境省 ふくしま復興サポーター」として、環境省の有志職員らとともに復興祭を手伝った。「いち早く役場機能を村に戻した川内村の思いに環境省も応えなくてはならない」と述べ、復興を後押しする考えを伝えた。