日本経済新聞(2014年7月29日)

福島県内の除染で出た汚染土壌などを一時保管する中間貯蔵施設について政府は28日、地元要望への回答を同県などに示した。当初計画していた用地の全面国有化は断念し、地上権設定による賃借を認める。土地売却後の住居票の維持にも道を開き、地元首長は「かなり前進があった」と評価した。今後は地域振興のための交付金の規模などが大きな焦点になる。
石原伸晃環境相と根本匠復興相は同日、東京都内で福島県の佐藤雄平知事、建設候補地である大熊町の渡辺利綱町長、双葉町の伊沢史朗町長と会談。石原環境相は「現時点でまとめられる最大限のものを示す」と述べ、住民からの要望への対応を伝えた。
この日の回答で政府は用地の扱いについて、買収して全面国有化する方針を転換。所有権は住民に残したまま国が土地を利用できる、期間30年の地上権を設定することも選択肢の一つとした。これにより地権者は国に売却しなくても用地を提供できるようになる。先祖伝来の土地を失うことへの反感に配慮した。将来地元に戻る意思のある避難住民には、土地を売却した後も住民票を残すことを認める。
「施設ができると住民の帰還が進まなくなる」との不安も強い。このため復興庁が両町の復興に向けた「基本的な考え」を示し、町とともに地域の将来像を検討。具体化に必要な財源を確保することも打ち出した。
国は土地を取得することに関し「最大限の補償を行う」としたが、住民が求めていた補償額のおよそのイメージは建設受け入れの後、地権者との個別交渉で示すとした。
さらに、福島県が要請していた双葉、大熊両町の復興などに使える交付金の創設についても、政府は具体的な資金の規模は示さなかった。
政府の回答に対し、佐藤知事は「中間貯蔵施設は特別な迷惑施設。影響は長期、全県に及ぶ」と指摘。交付金の規模などを早期に示すよう強く求めた。
一方、伊沢町長は「まだまだ納得できない」としつつも地上権の容認などは「かなり前進した」と評価。渡辺町長も「地元の意向を吸い上げてくれた」と背定的に受け止めた。
住民からは建設に対する不安の声も出ている。「30年間の地上権といっても、最終処分場になる懸念は消えない」。福島県双葉町の候補地に土地を持ち、いわき市の仮設住宅で暮らす70代男性は不信を募らせる。同市の仮設住宅に避難する大熊町の60代女性は「どこかには造らなければいけないが、生まれ育った土地を離れることの代償になる条件など思いつかない」と肩を落とした。
大熊町の候補地に土地を持ち、いわき市の仮設住宅で暮らす男性(68)は「30年後に土地が返ってきてもどうせ大熊町には帰れない。買い上げてもらってかまわない」と話した。

佐藤福島県知事らとの会談を終え、記者の質問に答える根本復興相㊧と石原環境相 (28日、東京都千代田区)

佐藤福島県知事らとの会談を終え、記者の質問に答える根本復興相㊧と石原環境相 (28日、東京都千代田区)

政府が中間貯蔵施設を巡る地元住民らの要望を一部受け入れたことで、中間貯蔵施設の建設合意に向けた交渉は一歩前進した。しかし、住民の生活再建への交付金など、いわゆる「金目」問題は先送りされ、着工へのハードルは高い。施設は除染の加速には不可欠で、来年1月とした施設の使用開始目標に間に合わなければ、福島の復興はさらに遅れることになる。
焦点となっている交付金について、政府は「極めて自由度の高い交付金などを活用し、県や地域が必要な措置を講じるための基盤を整える」と説明した。使う用途を国が決めるのではなく、福島県や建設候補地である大熊、双葉両町が自ら決められる資金だ。ところが、今回の会談では具体額が提示されず、県などは不満を示した。
政府関係者によると、交付金は1千億円規模を想定している。これに対し、福島県側は「わずかな額だ」として金額が少ないと反論。両者の思惑には開きがある。
交付金の増額は電気料金などを通じて国民の負担増につながる。「中間貯蔵施設だけを特別な迷惑施設と見なすことはできない」(政府関係者)。増額は厳しく、政府内の調整は難航している。
住民から土地を買い取る価格を巡っても交渉が長引きそうだ。政府は会談で「(県や町の)受け入れ判断後、用地補償額のイメージを示す」と説明した。合意前に個別の買い取り価格を示すと用地取得に時間がかかる可能性があるからだ。住民からは「いくらで買うのか」との疑問が相次ぐが、政府側は「個別の用地交渉に入る前に速やかに地権者向けの説明会を開く」との回答にとどまる。
放射性物質で汚染された土地は評価額を下げざるを得ないが、政府は「将来使える土地」としてできるだけ高く買う方針。ただ、土地によって状況が異なり、目安を示せないとし、住民との間に隔たりがある。さらに石原伸晃環境相が施設の交渉を「最後は金目」とした発言で、態度を硬化させた住民も少なくない。
建設合意を得られたとしても、汚染土を搬入する計画は策定されていない。道路の渋滞や交通事故対策、周辺住民の被曝(ひばく)防止策などもこれから。2町以外の周辺自治体への支援策も検討する必要がある。
9月には内閣改造、10月には福島県知事選を控え、国や地元のトップが交代する可能性もある。交渉が長引けば使用開始の目標達成は難しくなる。
石原環境相は会談後、「スケジュールは大変厳しいが、政府一丸になって努力する」と述べるにとどまった。