ビジネスアイ エネコ(2014年1月号)

大臣話_1-新枠組み交渉が本格化したCOP19に参加しての感想は?
「新枠組み交渉での最大のテーマは、すべての国が参加する公平で実効性のあるものを作ることですから、COP19でその基礎を固めることが出来たのは最大の成果だと思います。また、実際に会場に行ってみて感じたのは、(大勢が参加する)マルチな会議は大変だということです。10時から始まるものが30~40分たっても始まらない。閣僚セッションは3時からですといっておきながら6時になっても始まらず、結局なくなったり。時間に正確な日本人の感覚からすると、ちょっと考えられない。1カ国でも反対するとまとまらないものを積み上げていくのは大変だなと感じました」

-途上国も含めたすべての国が参加するには何が必要?
「途上国への資金援助も必要でしょうし、気候変動問題に対する責任分担を先進国と途上国とでどう差別化していくかということもポイントです。これらの点で先進国と途上国は利害が相反していますので、どうコーディネートしていくかですね。新枠組みに二酸化炭素(CO2)排出量が世界1位の中国や3位のインドが参加しないのでは意味がありませんから」
「今回、途上国サイドと話をして分かったのは、日本の最先端技術への要望が非常に強いということです。ぜひ日本の技術を移転してほしいとの声が強かった。以前は資金援助への要望の方が強かったので、すごく変わったなと感じました。これはいいことだと思います」

-新枠組みづくりでの日本の役割をどのように考えていますか
「まずは資金援助で途上国の温暖化対策を支援していきます。COP19で途上国の方々から喜ばれたのは、日本が途上国の温暖化対策支援として2013~15年の3年間で官民合わせて計160億ドル(約1兆6000億円)を拠出すると表明したことです。このボリューム(金額)は大きいと途上国の方々に思ってもらえたようです。一方、環境関連の技術開発の推進に向け、今後5年間で官民合わせ1100億ドル(約11兆円)の国内投資を行います。日本は環境にそんなに官民で投資していくのですかと、COP19参加国から反応がありました」

-新枠組み交渉では米国がボトムアップ型を提案するなど積極姿勢を見せています。米国の動向をどう見ていますか
「京都議定書から離脱した米国ですが、新枠組み交渉では、温室効果ガスの自主的な削減目標案の提出時期について2015年早期を提案するなど交渉をリードしています。米国も変わったなという感じがします。米国のこうした動向は、中国やインドといった主要なCO2排出国の新枠組み参加を確保するうえでも大切だと思います。わが国も、米国のこうした動向に拍手を送りました」

-途上国支援に対する日本のスタンスは?
「途上国はこれまで資金支援に重点を置いていましたが、最近は技術移転のニーズが高まっていますので、これに対応していきたい。もちろん資金援助も行い、3年間で計160億ドルを拠出します。それ以外では二国間クレジット制度(JCM)の普及ですね」
※二国間クレジット制度(JCM)とは途上国に環境技術を提供する見返りに、その技術によるCO2排出削減分を日本側に算入する制度。

ACE_1-二国間クレジット制度の進捗状況は?
「モンゴル、バングラデシュ、エチオピア、ケニア、モルディブ、ベトナム、ラオス、インドネシア、コスタリカの9カ国とは二国間文書の署名が終わり、二国間クレジット制度(JCM)が正式に開始されます。あとウェイティング(署名待ち)がカンボジア、パラオの2カ国です。コスタリカとはCOP19終了後の12月9日、レネ・カストロ・サラサール環境エネルギー大臣と東京で二国間文書に署名しました。中南米の国と二国間文書の署名が行われるのは初めてのことです。コスタリカ国内の温室効果ガス排出削減に協力することにより、地球規模での温暖化防止に向けた努力に貢献していきたいと考えています。カンボジアの担当大臣は『民主主義の国ですので手続きに多少時間がかかります。二国間クレジット制度の署名について国会の了解を得なければいけません』と言っていたのが印象的でした」
「COP19が開かれたポーランド・ワルシャワで、二国間文書に署名した8カ国の代表者が初めて一堂に会したのですが、この仲間をもっと増やしていこうよと、ほのぼのとした雰囲気で盛り上がりました。この会合ではいろいろな発見がありまして、参加したケニアの副大臣はJICA(国際協力機構)で働いていたことがあったそうです」

-二国間クレジット制度を国際的に認められたものにする方策は?
「COP18(カタール・ドーハ)で新たな市場メカニズムを開発して実施できることになっていますので、日本としては二国間クレジット制度を温室効果ガス排出削減の目標達成に活用可能と解釈しています。今後、国連で(新しい市場メカニズムの)具体的なルールづくりが進むわけですが、そのときに日本がどのようにコミットしていくかが重要になってくると思います」

-COP19では産業界との対話も盛んだったと聞きます
「日本経団連や学界の方々もワルシャワに来ていて、オールジャパンで技術の開発・普及を進め世界に貢献していきましょうと話しましたら、もちろんやっていきますといい反応がありました。あとCOP19の議長を務めたポーランドのコロレツ前環境相と話をしていましたら、ポーランドのエネルギー会社幹部とともに東京ガスの方と話をしてきましたと言っていました。COPでこのようなビジネス対話が行われるのは過去に例がなく、初めてです。ポーランドが新しい試みとしてイニシアチブをとったようです」

-日本は2020年までに温室効果ガスを05年比で3.8%削減する新目標を決めました。COP19参加国の反応は?
「(大勢が参加する)マルチの場ですと、どこかの国を叩いたら自国が浮かび上がりますから他国のことに文句をつけます。しかし、バイ(2人)で話をすると、『立場上、言わざるを得なかった』とか『(日本政府が)何も言わなくても分かっています』とか手のひらを返したようなことを言ってきて面白かった。日本の新目標についてきついことを言ってくる国もありましたが、『民主党政権時代の(2020年までに1990年比で)25%削減は、2030年に向けて原子力発電所を63基に増やしていくことが前提。そんなこと出来るわけがない。数字だけを見たら25%より3.8%のほうが低いというのは子供でも分かることですが、目標としては3.8%より実現不可能な25%の方が低いだろ』と言ったら、相手が黙ってしまいました」
「11月20日付のフィナンシャル・タイムズはこう書いています。(25%削減を実現するスベを持ち合わせていなかった)日本は不可避な事態を受け入れただけだ。COP19の各国代表は、日本が25%削減目標を反故にしたことを非難するのではなく、自身が参加しているプロセスのあり方を見つめ直すべきだと。また、誰も実現方法を知らないような目標を引き出すのではなく、環境破壊をせずに人々の欲望に対応する方法を編み出すことだ。日本が環境技術の開発に1100億ドルを国内投資することは意義があることだと。国会の環境委員会でCOP19の報告をした際はこの記事を紹介させていただき、削減目標が25%から3.8%になったが、これは野心的な目標だと説明し、委員の方々に理解してもらいました」

-2013年9月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書第1作業部会報告書が公表されました。報告書の中で注目した点は?
「私が一番驚いたのは、有効な温暖化対策がとられなかった場合、今世紀末には海面水位が最大82cm上昇するという予測です。報告書が公表される直前に南太平洋の島しょ国であるツバルとフィジーを訪問しました。ツバルのように平均海抜2mの国で82cmはものすごく深刻です。すでに生活圏が海面上昇で侵されていまして、海岸浸食でヤシの木がバタバタと倒れ、島の集会場が水に浮かんでいるような状態でした」
「島しょ国といえば、12月初旬に来日したパラオのレメンゲサウ大統領から聞いた話では、11月に台風30号がフィリピンなどを襲った際、パラオでは波の高さが5mにもなったそうです。今まではこんなことはなかったそうです。IPCCの第1作業部会報告書はこうした異常気象の増加について言及していますよね」

-気候変動の影響に見舞われている島しょ国では、日本の技術が役立ちそうです
「ツバルでは2012年、気候変動の影響からなのか、雨が半年間降らなかったそうです。飲み水は雨水だけですので、日本の援助で海水淡水化装置を設置しました。装置を動かす電力は太陽光発電で作り出します。私もこの淡水化装置で作られた水を飲んだのですが、しょっぱくなく普通の水でした。これはツバルの方々から本当に喜ばれました」

-日本が世界に誇る技術に石炭火力発電があります。一方で石炭は化石燃料の中でもっともCO2を排出します。石炭火力への評価は?
「私の考えはとてもシンプルで、トータルでCO2を出さないようにしてほしいということです。古い石炭火力のリプレース(老朽化した発電所を廃止、撤去し、同じ敷地にまったく新しい発電所を建設すること)なら歓迎するけども、石炭は天然ガスの2倍、CO2を排出するから決していいものではないよとクギを刺しています」

-海外では日本のどんな技術に関心が集まりますか
「風力発電や太陽光発電、省エネやエネルギー効率向上の技術などに関心があるように思います。島国ではだいたいディーゼルで発電していまして、先ほどのツバルも日本のディーゼルで発電しています。私がツバルに行った際、ディーゼルを風力発電に代えたらかなり違いますよと言ったら、目を輝かせていました。ただネックは、風力はまだ安いコストで発電できるところまで来ていないということです。2014年度予算要求では再生可能エネルギーを最大限導入するため、かなりのボリューム(予算額)を取ろうと鋭意努力しています」

-石原大臣が注目している技術はありますか
「私が注目しているのは地熱です。発電だけでなく熱も利用できます。日本最大の地熱発電所である八丁原発電所(大分県)や地熱大国として知られるアイスランドに見に行き、結構入れ込んでいます。地熱エネルギーを利用する前のアイスランドの写真を見せてもらいましたら、当時は石炭を焚いていたので町中が真っ黒でした。それが再生可能エネルギーである地熱を利用するようになって、きれいになりました。2013年度予算で地熱発電の事業計画策定を支援するための事業を予定していまして、岩手・雫石町、東京・青ヶ島村、鹿児島・三島村(硫黄島)の3カ所の案件を採択しました」
※日本の地熱資源量は2300万kWで、米国(3900万kW)、インドネシア(2700万kW)に次いで世界第3位。

-アイスランドの地熱利用を視察して、日本でも参考になることはありましたか
「アイスランドでは地熱で発電するだけでなく、熱も利用して地域暖房に活用しています。エネルギーを無駄にしないという点で参考になります」
「地熱で面白いと思ったのは別府温泉(大分県)です。実は、地熱利用の第1号は大分県で、昭和20年代に直径8cmほどの管で水蒸気を取り出していたそうです。その別府温泉には杉乃井ホテルがあり、全2600室の半分ぐらいの電力を地熱で賄っています。あともう1本、地熱エネルギーを取り出すための管を設置できれば、すべての部屋の電力を地熱で賄えるそうです。ただ温泉法の関係で管を設置する間隔に縛りがあって、もう5m遠くまで広がればもっといいエネルギーに当たるそうです」

-地熱のほかに興味を持っているものは
「潮流発電に興味を持っています。長崎県五島市(五島列島の南西部)では、野口市太郎市長が市議会議長や漁協組合長と一緒に、国を挙げて潮流発電などに取り組むスコットランドまで視察に行っています。五島市を再生可能エネルギーなど環境で完結した町にするんだと頑張っています。このような取り組みはバックアップしたいですよね」

インタビューを終えて
11~12月にかけCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)の開催時期になると、環境大臣をインタビューするのが小誌の恒例になっています。2012年は民主党の長浜博行・前環境大臣をインタビューしましたが、そのころと比べ大臣室のイメージが大きく変わっていました。
長浜氏のときは大臣のデスクの前に大きな応接セットがあったのですが、今は大きな楕円形の会議テーブルが置かれています。幹部を集めた会議などに使われているのでしょう。現在の応接セットはデスクの横にあります。見た感じでは、現在のレイアウトの方が機能的な感じがします。
今回驚いたのはインタビュー中に10人以上の環境省幹部の方々が横に控え、インタビューを見守っていることでした。長浜氏のときはもっと少なかったような…石原氏はとても気さくな方でしたが、控えていた幹部の方々の視線がものすごいプレッシャーでした。 (本田)